屋久島に行った話5(最終回)

写真を撮ってもらえず、画面は真っ赤。誰か私にべホイミを!そんな魔法ができるパーティーは存在せず、太陽元気な南国一人旅。「おのれ屋久島!このまま負けて帰る私ではない。世界遺産がナンボのモンじゃ!」と元気に立ち上がったわけではなく、太陽がサンサンと照りつける中、一人ポツンと残された私は「はぁ〜〜〜〜・・・」とため息と共に再び歩き始めたのでした。
しばらく歩くと今度はさっきよりは大きな漁港があり、釣り人も何人もいる。みんなTシャツ・短パン・サンダルといったいかにもその辺に住んでいる人が「散歩代わりに竿をかついでやってきました。ウン、暇つぶしです。」といった感じで非常にのんびりしていて正統派の田舎でヨロシイ。「おおッこれならイケるか!きっとここには阪神タイガースのようなシマシマの魚がいるはずだ!」と意気込んで埠頭の先端に入れてもらう。
再びルアー竿を振り始めると案外釣り方は間違っていないらしく「底魚狙いかね?」と声をかけられた。周囲では同じ釣り方をしている人は皆無でしたが・・・(皆、コマセを使ったサビキ釣りだった)。「まあ、そんなところです。」と精一杯の笑顔で返答。ココロでは密かに「さあ来い。阪神タイガースの(略)。釣れたらでっかい声で「北海道の魚より簡単に釣れますねー!やっぱり暑いところの魚は暑くてボーっとしてんのかなあ!」とか叫んでやる!」と決めていたのであった。

キャスト!ジーーーー(リールを巻く音)ーーーーー・・・。

キャスト!ジーーーー(リールを巻く音)ーーーーー・・・。

キャスト!ジーーーー(リールを巻く音)ーーーーー・・・。


(来ねぇ・・・)

キャスト!ジーーーー(リールを巻く音)ーーーーー・・・。

(もしかして、寒いところの魚の方が・・・)

キャスト!ジーーーー(リールを巻く音)ーーーーー・・・。

ガツン!

Hit!? キタ━━━━━(゜∀゜)━━━━━!!!!

大物でした!
地球でした・・・。あっさりルアーをロスト。
1時間竿を振って結果は惨敗。ルアーを3個なくし「ノールアーでフィニッシュです。」となりました。ああ北の魚の方がバカだったよ、ママン。ちゅーか、私ヘタクソでした。忘れてました。完全に戦意喪失。
そのまま翌日のチケットをとるために空港までトボトボと歩きました。それは競馬で負けたあとのオケラ街道の行進と気分は変わりませんでした。鹿児島ー東京ー千歳のチケットは既にあったのであとは屋久島ー鹿児島のチケットを取るだけ。残念ながらあっさりと取れました。「取れなかったら有給で休みが伸ばせたのに」とかそのときは素で考えていました。(完全に仕事を投げていたのを忘れてました。)

あとはその日の宿泊場所。丁度空港そばにライダーハウスがあったのでそこで一泊申し込み場所を確保しました。なんか普通の民家の前の空き地にテントが何張りかあって、ちょっとしたテント村になっている。先住民とおぼしき女の子に話を聞くと、長期泊の人が何人かいること(3ヶ月とかの人がザラにいる)、みんな知らない人たちであちこちから来ていること(その子は札幌から来ていた!奇遇)、なかにはずっと遊んでいる人もいるが現地でバイトを見つけて宿泊費を稼いでいる人もいること、など教えてもらった。
その子は「夏がすぎたら帰ろうかなー」とか言っていたっけ。「フーン・・・」と感心し、まあいろんな若い頃の時間の過ごし方があるんだなー、と感じた。ここに宿泊している人たちは和気藹々としていて、仲間と交流することも楽しんでいる感じ。昨日のキャンプ村の学生さんは黙々と自分の時間を自分だけで楽しんでいる感じだったのを思い出した。

昼飯は近くの豚カツ屋ですます。午前中に結構、心身両面で疲れたのでビールを買い込み、木陰でそいつをチビチビやりながら文庫本の残りを読んでのんびりと過ごした。暑くはあったけど優雅な時間。私は自分だけの時間を自分だけで楽しむことにした。

夕方陽が暮れると、ライダーハウスの住民が「こんなにいたのか」と思うくらい集まり夕食の準備を始めていた。皆、ニンジンを切ったり、ラーメンを作ったりと自炊していて、それぞれが自立した質素な生活を楽しんでいることに感心する。若い旅人たちが、あとで思い返して楽しいのはそういった旅なのかもしれない。私のポリシーとして、自分が食べていくために自分で食費を稼ぎ(食材を確保し)、節約し、自分で食事を作れること、これが一人前の大人の条件だと思っている。これは原始の時代から変わらぬ条件の一つではないだろうか。いくら便利な時代になっても。彼らはその条件を十分に満たしていた。生活力のある大人の姿だった。
夜も更けるとハウスの前の街灯の下に何人か集まってギターを弾くもの、二人で真剣に話し合う者たち、一人離れ木にぶら下がり黙々と懸垂をやって体を鍛えている者、それぞれであった。彼らからは少し年代が離れた私が感じたのは、みんな共通して何かエネルギーをもてあましているなあ、ということ。
急な新参者に対してチラチラと視線を送ってくる者、話しかけてくる者もいたが、明日帰る事を告げると「あーそうなんですか」と気のない返事をしてまたもとの集団に戻っていった。単行本を読み終え、ヘッドライトを消して眠る。ギターの音が遅くまで響いていた。

翌日出発前にハウスの人に礼を言い、一泊のお礼と屋久島に来た記念に読み終えた文庫本と釣竿・リールを置いてきた。まだあるかな、あの迷彩柄の竿。誰かに使ってもらって魚を釣り上げる感覚を刻み込んでもらえただろうか。釣竿には「ヘタクソな主人であったなあ。ゴメンなぁ」と謝っておいた。いつかは阪神タ(略)。

飛行機に乗り込み屋久島から鹿児島ー東京ー千歳へと飛行機3連発。ぐったりする。

久しぶりの北海道は同じように暑かったが、夕暮れの緑はやっぱりどこかおとなしい感じで、帰ってきたと実感できた。

以上で、屋久島に行った話、終わり。
ウン、懐かしかったなあ。

お世話になったライダーハウス「とまり木」
http://www.interq.or.jp/sun/sontwo/tomariki.htm

あとついでに面白いというか、すごいなあというニュースを。